体力が虚弱な人で、貧血、食欲不振でやせて、皮膚が乾燥し、手足が冷え、脈も腹も軟弱な人に用います。大病後、手術後、慢性病、産後、疲労倦怠、低血圧、胃腸虚弱などに応用します。
肝機能障害がある方の体力や免疫力回復に用いられます。
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)の効能
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十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)の解説
十全大補湯の重要生薬 当帰、川きゅう、地黄
十全大補湯は消化機能を高める四君子湯(しくんしとうし)と滋養強壮の四物湯(しもつとう)に、体を暑さ寒さから守り抵抗力を益す黄者(おうぎ)と、新陳代謝を高め腎の働きを強力にする桂皮(けいひ)を加えたものです。
十全大補湯は、「気」「血」いずれも虚で、内臓の機能が全般に衰えている人に対して、胃腸の働きを改善し、滋養強壮して自然治癒力を高めるように働きます。
ですので、大病後、産後、手術後の衰弱、食欲不振、手足の冷え、疲労倦怠、体力低下のお年寄りなど肉体的にも精神的にも衰弱した人に最も適している処方であるといえるでしょう。
十全大補湯を構成する生薬は、先ほど挙げた黄耆と桂皮のほか、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川きゅう(せんきゅう)、地黄(じおう)の8種(甘草が1.5g、その他は3g)です。
この中で、処方の効果を左右する生薬は当帰、地黄、川きゅうです。その理由は、十全大補湯を構成する当帰、川きゅう、地黄が胃を悪くしやすいものだからです。
当帰と川きゅうは精油成分が多いため、とても香りが強く、そして香りの強いものは胃の粘膜を荒らしやすいのです。また、地黄はとても粘っこい生薬で、消化しにくいために胃もたれを起こしやすいのです。
地黄には乾地黄(かんじおう)と熟地黄(じゅくじおう)の2種があり、十全大補湯に使うのは熟地黄と決まっていますが、この熟地黄を作る加工法によって品質が左右されます。熟地黄は地黄を酒で蒸して天日で乾かすという作業を9回繰り返さなければならないのですが、この回数が少ないものは胃もたれを起こしやすくなります。
当帰と川弓は、胃を荒らす成分を除去するために、加工段階で酒で炒る作業をしなくてはなりません。当帰と川きゅうを使った散薬(粉薬)の代表的な処方「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくさん)は、酒と蜂蜜を合わせて服用することになっていますが、そうしないと薬効成分を取り出せないからです。
このため、煎じ薬の十全大補湯の場合は、当帰も川きゅうも、酒で処理した生薬でなくてはなりません。きちんと処理された生薬が使用されていれば、十全人補湯を飲んで胃を悪くするようなことはありません。選ぶ際は、この点に注意してください。
十全大補湯と補中益気湯(ほちゅうえっきとう)との比較
8月の後半は、「夏ばて」の人がでる時期です。夏ばては、高温・多湿の熱帯夜が続く中で睡眠が十分に取れず、しかも仕事などで体力を消耗した結果起こる倦怠感、疲労感、食欲不振、下痢、体重減少などの症状を総称したものです。
特に虚弱体質の人や体力の低下した老人の方は、注意が必要です。汗をかき過ぎて体内の水分やミネラルが減少する、暑さで消化機能が弱まり食欲がなくなる、エアコンの普及で体温調節機能が低下するなどが夏ばての原因と考えられています。
夏ばての漢方薬というと、有名なのが十全大補湯と「補中益気湯」(ほちゅうえっきとう)です。若い人の夏ばてなら、補中益気湯を選択した方か良いでしょう。
補中益気湯どんなタイプに合うかというと顔色がさほど悪くなく、食欲がなく、手足のだるさを強く感じる人です。これは元気の元である「陽気」の抜けた状態で、漢方では「気虚」という状態に当たります。
気虚の人は陽の気が不足していますから、これを補ってあげなくてはいけません。そこで気を補う処方が補中益気湯なのです。ただし、補中益気湯は若い人向けと考えられています。
年齢の高い方には、「十全大補湯」が向いています。補中益気湯が「中」すなわち胃腸の衰えを補って消化器官を丈夫にし、「益気」すなわち気を益して元気を出す処方であるのに対して、十全人補湯の「十全」は完壁なものという意味で、「失われた気も血も完壁に補う処方」を意味しているからです。
十全大補酒の作り方
自然の生薬からできている漢方薬は酒と相性がよく、アルコール分が薬効成分の体内吸収を高めてくれます。中国の薬酒は種類が多く、十全大補酒は代表的な薬酒です。疲労回復や夏ばてにとても効果があります。
十全大補酒の作り方ですが、25度のホワイトリカーか焼酎720mlと、賦形剤(ふけいざい)にトウモロコシのでんぷんを使った十全大補湯の漢方エキス剤を40gを使用します。
賦形剤に乳糖が使われているエキス剤もありますが、乳糖は水にも溶けますから薬酒がドロドロになってしまいますので、薬酒には向いていません。トウモロコシのでんぷんなら生薬のエキスのみが溶けて、賦形剤は固まりますから、後でそれを取り除きます。
ホワイトリカーか焼酎にエキス剤を入れて、よく振って混ぜた後、2晩ほど放置してください。固まった賦形剤はビンの底に沈殿していますから、上澄みだけを静かに別のビンに移せば出来上がり。十全大補湯の10種の生薬をそのまま漬けますと、約3ヵ月ほどかかります。
就寝前に10mlをお湯で適当に薄めて飲みます。必要に応じて1日2~3回まで飲んでも大丈夫です。
適応される主な症状
- 疲労倦怠
- 食欲不振
- 低血圧
配合生薬
配合生薬の効能
人参(にんじん)
漢方治療において最も繁用される有名生薬の一つで、古くから高貴な万能薬としてよく知られています。漢方では強壮や胃腸衰弱、消化不良、嘔吐、下痢、食欲不振などの改善を目標に幅広く処方されます。
この生薬の特異成分であるダマラン系サポニン(主としてギンセノシドRb、Rg群)は動物実験で、強制運動に対する疲労防止、および疲労回復、抗ストレス作用、ストレス潰瘍防止、免疫活性およびアンチエイジングなどを示し、各種機能の低下を抑制する作用が認められています。
その他、抗炎症、抗悪性腫瘍、肝機能改善作用、血糖降下作用、血中コレステロールおよび中性脂肪の低下作用なども確認されています。また、記憶障害改善(抗痴呆)効果が示唆されています。
黄耆(おうぎ)
強壮、利尿効果がある他、免疫活性、抗炎症、抗アレルギー、血圧降下作用が認められています。単独で使われることはあまりなく、漢方では補気(益気)薬として配合される重要生薬です。たとえば、疲れ気味で、汗をかく虚弱体質の人によく適用される処方として黄耆建中湯(おうぎけんちゆうとう)があります。
有効成分ホルモノネチンは抗酸化作用を有し、アストラガロサイドや、ソヤサポニンに抗炎症作用が認められています。
また、黄耆の抽出工キスに動物実験で肝障害予防、末梢血管拡張作用、インターフェロン誘起作用などが確認され、黄耆の効能が裏付けられています。
蒼朮(そうじゅつ)
朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。
日本では調製法の違いによって白朮(びやくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。
両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。
当帰(とうき)
婦人病の妙薬として、漢方でひんぱんに処方される重要生薬の一つです。漢方では古来、駆お血(血流停滞の改善)、強壮、鎮痛、鎮静薬として、貧血、腰痛、身体疼痛、生理痛生理不順、その他更年期障害に適用されています。
茎葉の乾燥品は、ひびやしもやけ、肌荒れなどに薬湯料として利用されています。鎮静作用はリグスチライド、ブチリデンフタライド、セダン酸ラクトン、サフロールなどの精油成分によります。また有効成分アセチレン系のファルカリンジオールに鎮痛作用があります。
駆お血効果を裏付ける成分として、血液凝固阻害作用を示すアデノシンが豊富に含まれています。また、アラビノガラクタンなどの多糖体に免疫活性作用や抗腫瘍作用が認められ、抗ガン剤としての期待も、もたれています。
茯苓(ぶくりょう)
茯苓には、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。漢方処方では利尿剤、利水剤、心悸亢進、胃内停水、浮腫、筋肉の痙攣などに茯苓を配合しています。
秩苓とは漢名で、植物名をマツホドと呼び、松の根に寄生するサルノコシカケ科の菌核です。秩苓は菌核に多糖類のβパヒマンを、それにテルペノイドやエルゴステロールなどの成分を含んでいます。
最近の報告では多糖類のパヒマンから誘導されたパヒマランに、細胞性免疫賦活作用が認められています。サルノコシカケ科に共通の抗腫瘍作用とともに、今後の研究が期待されています。
茯苓は民間薬としては使われず、まれに利尿を目的に煎液を飲む程度です。漢方でも配合薬としては汎用されますが、単独では用いません。
地黄(じおう)
地黄は漢方治療で、糖尿病に用いられる処方の一つ八味地黄丸(はちみじおうがん)の主構成生薬です。地黄にはその調製法により鮮地黄(せんじおう)、乾地黄(かんじおう)、熟地黄(じゆくじおう)があります。
乾地黄には熱を冷ます作用と血糖降下作用がありますが、虚弱体質の方には不向きです。乾地黄の血糖降下作用はイリドイド配糖体のレーマンノサイド類によるものです、その他、乾地黄エキスには血圧を下げる作用が認められています。
鮮地黄には止血や通経作用があり、熟地黄エキスには血液増加作用や強壮効果があります。
川きゅう(せんきゅう)
川きゅうには補血、強壮、鎮痛、鎮静があります。漢方では貧血、冷え性、生理痛生理不順など婦人科の各種疾患に利用されています。
有効成分のリグスチライドなどのフタライド類に筋弛緩作用や血小板凝集阻害作用が有ります。またクニジリットには、免疫活性作用が認められています。
古い医学書には性病による各種皮膚疾患、化膿性のできもの、疥癬(かいせん)などを治すと記載されています。
芍薬(しゃくやく)
芍薬は漢方処方で最もよく配合される生薬の一つで、主として筋肉の硬直、腹痛、腹部膨満感、頭痛、血滞などに広く処方されています。
主成分のモノテルペン配糖体ペオニフロリンには鎮痛、鎮静作用の他、末梢血管拡張、血流増加促進作用、抗アレルギー、ストレス性潰瘍の抑制、記憶学習障害改善、血小板凝集抑制などの作用が有ります。その他、非糖体ペオニフロリゲノンには筋弛緩作用が認められています。
桂皮(けいひ)
桂皮には、発汗作用 健胃作用 のぼせを治す作用 鎮痛作用 解熱作用があります。漢方では、頭痛、発熱、悪風、体痛、逆上などを目的に使います。
主成分は、カツラアルデヒドを含む精油です。
風邪をひいて胃腸や体が丈夫でない人は葛根湯(かっこんとう)でなく、桂皮を配合した桂枝湯(けいしとう)を服用すると良いでしょう。
民間療法として桂皮は健胃、整腸に用いられ、桂皮を煎じて食前に飲みます。また桂皮の葉を陰干しにし布袋に詰めて風呂に入れると、精油の作用で体をあたためる効果があります。
甘草(かんぞう)
甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。
有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。
その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。
有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。
甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。
肝機能障害に処方されるその他の漢方薬
実証
- 大柴胡湯(だいさいことう)
肝機能障害や胆石に用いられます。胸脇苦満があり、黄疸などの症状が認められる場合に有効です。
中間証
- 小柴胡湯(しょうさいことう)
慢性肝炎の治療に用いられます。成分の柴胡に肝機能障害を改善する作用があります。 - 茵ちん五苓散(いんちんごれいさん)
肝炎にともなう、むくみなどに用いられます。 - 茵ちん蒿湯(いんちんこうとう)
黄疸、便秘、吐き気、みぞおち付近の膨満感、尿量減少などの症状がある肝炎、肝硬変に用いられます。 - 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
食欲不振があり、みぞおち周辺につかえ感、吐き気、軽い腹痛、お腹が鳴るなどの症状に用いられます。 - 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
肝機能障害があり、胸脇苦満や胸のつかえ、寝汗や微熱がある場合などに用いられます。 - 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
お血のある人、顔色の悪い人に使われます
虚証
- 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
肝機能障害がある人の体力増強に用いられます。胸脇苦満、寝汗、微熱などの症状に有効です。 - 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
肝機能障害で疲労倦怠や食欲不振が強い人の体力回復、免疫力を高めるために用いられます。 - 人参養栄湯(にんじんようえいとう)
肝機能障害で体力が低下した人の体カ、免疫力回復に用いられます。
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「証」とは体力、体質、症状などから患者さんの状態を総合的に観察した診断結果のことです。
- 実証は生理機能が高まった状態を意味して、外見は健康そうに見えます。
- 虚証は体力がなく、生理機能が衰え、抵抗力も低下した状態を意味します。
- 中間証は実証または虚証のどちらも偏らず、それぞれの特徴を半分ずつもつ場合を意味します。
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