肝臓・肝機能障害の治療ガイド

-半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)-

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の効能

体力中等度で、みぞおちにつかえ感があり、腹がゴロゴロと鳴り、下痢または軟便で腹痛がなく、下痢と便秘が交互することがある、食欲不振、吐き気、嘔吐、口臭がある人に用います。急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、口内炎、下痢、胸やけなどに応用します。

肝機能障害により食欲不振があり、みぞおち周辺につかえ感、吐き気、軽い腹痛、お腹が鳴るなどの症状に用いられます。


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半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の解説

暴飲暴食に効果がある半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

市販されている漢方胃腸薬は、ほとんど「安中散」(あんちゅうさん)「安中散加茯苓」(あんちゅうさんかぶくりょう)という処方です。しかし安中散や安中散加茯苓には、消化を助けるような生薬が入っていないのです。

安中散は成分の8割が本来香りの強い生薬で、その香りの力で胃の働きを改善していく処方なのです。ですから、香りを感じられるような安中散ならいいのですが、それを追求すると生薬の一つ一つが良品で高価なものでなくてはなりません。今の市販価格では、なかなかその品質は実現できないのです。

暴飲暴食によって胃が弱っている場合は、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を服用した方が効果的です。安中散が「気」(き)をめぐらせて温めるという2つの作用の処方であるのに対して、半夏瀉心湯は温める、冷やす、そして気をめぐらせるという3つの作用があるからです。胃腸薬には、この3つの作用が必要なのです。

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)と「脾胃」(ひい)の関係

漢方では胃腸を「脾胃」(ひい)という概念でとらえます。脾は食物を消化させてエネルギーを作る役目を持つ部位で、これを「臓」(ぞう)といい、胃はそのエネルギーを貯えたり運んだりする役目の部位で、これを「腑」(ふ)といいます。脾は五臓(ごぞう)の一つ、胃は六腑(ろっぷ)の一つで、表裏の関係にあります。

漢方の胃は西洋医学でいう胃と同じものですが、脾は西洋医学の脾臓を指すのではなく、「胃腸の働き」そのものと考えてください。

脾胃は生理的に正反対の働きをしています。つまり、脾は気を上部の肺のほうへ運ぶ働きを、胃は気を下のほうへ運ぶ働きをしているのです。ですから、脾から出る気は上に昇るのが正常で、食物から得たエネルギーを肺に運びます。肺はそのエネルギーを原料にして呼吸をし、酸素を取り入れて「元気」の原料とするのです。

そして胃から出る気は下に向かって消化した滓(かす)を運び、便として排泄させます。脾胃はまさに、西洋医学でいう胃腸ですが、漢方はこれを単なる消化器官としてとらえるのではなく、気の流れと合わせてとらえるところに特微があります。つまり、私たちの体は気が動くことによって成り立つとするのです。

気はエネルギーと同じ概念ですが、上に昇るのが正常な気もあれば下に降りるのが正常な気もあり、それぞれが逆の動きをすると体に異常が起こると考えられています。

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は優れた胃腸薬

安中散より半夏瀉心湯が優れているのは、西洋医学的にいうと胃腸には暖かい部分と冷たい部分があり、冷えに対しては温め、熱の持ち過ぎに対しては冷ます必要があるからです。

半夏瀉心湯を構成する生薬は7つありますが、冷やす作用がある黄連(おうれん)黄ごん(おうごん)、温める作用がある生姜(しょうきょう)半夏(はんげ)、そして胃腸の働きを根本から改善し消化を助ける作用がある人参(にんじん)大棗(たいそう)炙甘草(しゃかんぞう)という組み合わせの処方なのです。生薬の配合量は半夏が5g、黄連が1g、その他は2.5gです。

このようなタイプの胃腸薬は、西洋医薬には有りません。消化を助けるための酵素はありますが、温めたり冷ましたりする作用の薬はありません。

そいて半夏瀉心湯が温めることしかできない安中散より優れているのは、一つの処方に寒剤と温剤が理想的に調和されているからですが、これが胃腸のあらゆるトラブルに対して、万能に使える根拠なのです。そして市販の漢方胃腸薬・安中散は、神経性胃炎とかお腹がすくと痛む胃の症状には適していますが、潰瘍には使えませんし、嘔吐や下痢にも効果はありません。

嘔吐は摂取した栄養を下へ運ぶべきところが上に昇ってしまうこと、反対に下痢は上へ持っていこうとしているのに下へ行ってしまうことで、いずれも脾胃がトラブルによって逆の働きをしているわけですから、このような場合の脾胃の調整薬としては、半夏瀉心湯が優れているのです。

適応される主な症状

  • 過敏性腸症候群
  • 急性胃炎、慢性胃炎
  • 胃潰瘍、十二指腸潰瘍

配合生薬

配合生薬の効能

半夏(はんげ)

半夏には水分の停滞や代謝障害の改善作用や、鎮吐効果(吐き気止め)があります。特に胸腹部に突き上げるような膨満感があり、お腹がゴロゴロなる場合やのどの痛みがある場合に用います。

しかし、えぐみが強く、飲みにくくてかえって吐き気を催すこともあるので、単独で利用されることはまれで、漢方では吐き気をともなう胃腸障害や、つわりの適用処方などに広く配合される重要生薬の一つです。

鎮吐作用は、有効成分のアラビナンを主体とする多糖体成分によると考えられています。

黄ごん(おうごん)

漢方の中でも最もよく利用されるものの一つで、主に炎症や胃部のつかえ、下痢、嘔吐などを目的に使用されています。

黄ごんエキスは、炎症に関与する諸酵素に対して阻害作用を示しています。これらの作用は、この生薬中に豊富に含まれるフボノイドによるもので、特に有効成分バイカリンやバイカレイン、およびその配糖体はプロスタグランジンらの生合成やロイコトリエン類などの炎症物質の産生を阻害します。

その他、抗アレルギー(ケミカルメジエーターの遊離抑制)、活性酸素除去、過酸化脂質形成抑制、トランスアミナーゼの上昇抑制による肝障害予防、および胆汁排泄促進による利胆作用などが確認されています。

また、ヒト肝ガン由来培養肝がん細胞の増殖を抑制する他、メラノーマの培養細胞の増殖を抑制することより抗腫瘍効果が期待されています。漢方で多くの処方に配合されていますが、単独で用いられることはありません。

乾姜(かんきょう)

乾姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。

人参(にんじん)

漢方治療において最も繁用される有名生薬の一つで、古くから高貴な万能薬としてよく知られています。漢方では強壮や胃腸衰弱、消化不良、嘔吐、下痢、食欲不振などの改善を目標に幅広く処方されます。

この生薬の特異成分であるダマラン系サポニン(主としてギンセノシドRb、Rg群)は動物実験で、強制運動に対する疲労防止、および疲労回復、抗ストレス作用、ストレス潰瘍防止、免疫活性およびアンチエイジングなどを示し、各種機能の低下を抑制する作用が認められています。

その他、抗炎症、抗悪性腫瘍、肝機能改善作用、血糖降下作用、血中コレステロールおよび中性脂肪の低下作用なども確認されています。また、記憶障害改善(抗痴呆)効果が示唆されています。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。

大棗(たいそう)

大棗は滋養強壮、健胃消化、鎮痛鎮痙、精神神経用薬として、多くの漢方処方に配合されています。

含有サポニンのジジフスサポニンによる抗ストレス作用があり、アルカロイド成分リシカミンのおよびノルヌシフェリンなどによる睡眠延長作用、多糖体ジジフスアラビナンによる免疫活性などが報告されています。

その他、サイクリックAMP(環状アデノシン一リン酸)があります、サイクリックAMPは脂肪組織を構成する中性脂肪の分解を促します。また、含有成分フルクトピラノサイドには抗アレルギー作用が認められています。

黄連(おうれん)

苦味健胃薬として、よく利用される重要な生薬の一つです。漢方では精神不安や胸のつかえ、腹部疼痛、下痢、嘔吐を目的に使用されます。

成分としては、アルカロイドが主体で、コプチジンやオウレニン、ベルベリン、パルマチンなどです。

ベルベリンは大腸菌、チフス菌、コレラ菌に対して殺菌作用を、黄色ブドウ球菌、淋菌、赤痢菌などに対して広範囲な抗菌作用を示すほか、抗炎症作用および肝障害改善作用をも示します。抗炎症作用はコプチジンにもみられます。

その他、熱水抽出エキスには、消化酵素の活性化、高コレステロール症状の改善、免疫細胞のマクロファージを活性化して免疫力を強化する作用、鎮静作用など多くの作用が報告されています。

漢方薬の使用上の注意

漢方薬の副作用

肝機能障害に処方されるその他の漢方薬

実証

中間証

虚証


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漢方薬は、自分の証に合ったものをお選び下さい。

「証」とは体力、体質、症状などから患者さんの状態を総合的に観察した診断結果のことです。

  • 実証は生理機能が高まった状態を意味して、外見は健康そうに見えます。
  • 虚証は体力がなく、生理機能が衰え、抵抗力も低下した状態を意味します。
  • 中間証は実証または虚証のどちらも偏らず、それぞれの特徴を半分ずつもつ場合を意味します。

「証」の判定は証の自己判定テストご利用ください。


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